トリュフやフォアグラと並ぶ世界三大珍味の一つキャビアは、チョウザメの卵を塩漬けにしたもの。このことからチョウザメは、キャビア・フィッシュという愛称で呼ばれます。キャビアはカスピ海産が有名ですが、カスピ海に生息するチョウザメの数は乱獲や水質の悪化によって1990年代の10年間で約4分の1にまで減少しました。
実はこのチョウザメ、サメではなくシーラカンスと同じ古代魚の残存種で、およそ3億年前から地球上に存在するといわれています。珍味としてだけでなく、学術的にも貴重な魚が絶滅の危機にさらされるなか、フジキンが展開するチョウザメの完全養殖は種の保存という点でも大きな意味を持っています。
フジキンが、超精密ながれ(流体)制御技術を用いた新事業としてチョウザメの養殖に向けて動き始めたのは1987年(昭和62年)。チョウザメとキャビアの本場・旧ソ連へプロジェクトメンバーを派遣したときから始まります。
このときの調査で、フジキンの技術を活かした養殖施設の構築についてはいくつかのヒントを得られたものの、チョウザメのふ化技術や与える餌などについては、まだ何一つわからない状況でした。
1989年(平成元年)、万博記念つくば先端事業所に設けた養殖プラントで旧ソ連から譲り受けた生後3、4年のチョウザメ(ベステル種)約100匹の飼育を開始。超精密ながれ(流体)制御技術で故郷の川に近い環境をつくり出すとともに、個体識別管理などによって生態データの蓄積を進め、1992年には民間企業として初めて人工ふ化に成功します。しかし、初年度のチョウザメ生残率はわずか5%に過ぎませんでした。
その後も、ふ化して2カ月まで育てる技術や、オス、メスの判別を早める技術などを開発し、1998年、ようやく世界で初めて水槽での完全養殖に成功し、生残率も約60%までアップ。このとき、フジキン産のチョウザメを「キャビア・フィッシュ(超ちょうざめ)」と命名しました。
フジキンの超精密ながれ(流体)制御技術はチョウザメに負担の掛からない「ながれ」をつくっているだけではありません。飼育水槽の水を生物ろ過槽で浄化して飼育水槽に戻す「完全閉鎖循環ろ過方式」の採用で、環境負荷も限りなく低減しました。
これによって薬品を一切使用しない「オーガニック魚」の生産を実現するとともに、一般的な掛け流し方式の施設では1日当たり約1万8,000トンの注水が必要なところを、わずか1トンに抑えることができました。また、ろ過槽に凝縮された汚泥は堆肥として使える状態まで分解されているため、敷地内で緑地や樹木の有機肥料として活用しています。
良質な環境で完全養殖されたチョウザメは、全国の養殖業者様へ稚魚として販売しているほか、レストランなどへキャビア用の抱卵活魚や魚肉用の活〆魚を販売しています。
日本ではあまり知られていませんが、チョウザメの魚肉は「エンペラーフィッシュ」「ロイヤルフィッシュ」と呼ばれ、皇帝や王様に献上されたほどの高級食材。フグを思わせるしっかりとした食感や淡泊で上品な味わいを持ち、グルタミン酸やアスパラギン酸などの栄養素を豊富に含むことから人気を呼び、メニューに取り入れるお店が増えてきました。
こうした需要の高まりから、近年では全国各地でチョウザメの養殖による町おこしが行われるようになり、また、学術面でもさまざまな研究にフジキン産まれのチョウザメが貢献しています。